親告罪-告訴権者一覧
- 親告罪(告訴が起訴要件の罪)とは
- 親告罪一覧
- 告訴権者(告訴できる人)一覧
- 未成年の告訴
- 成年被後見人、被保佐人の告訴
- 被害者が複数人いる場合の告訴
- 法人、法人格のない社団・財団が被害者のときの告訴
- 判例で告訴権者と認められた者
1.親告罪とは
ほとんどの犯罪は、告訴・告発がなくても、公訴を提起(起訴)できます。例外として、告訴がなければ公訴を提起することができない犯罪があり、このような犯罪を親告罪といいます。
親告罪とは、「告訴を公訴提起要件(訴訟条件)とする罪」です。
親告罪がある理由
理由1.被害者の名誉・信用・秘密等の保護
起訴によって事実が明るみに出たり公表されることによって、被害者がさらに不利益をこうむる場合があるため。 秘密漏示罪、名誉毀損罪などは、これを理由に親告罪とされています。
2017年7月に刑法改正によってこれまで親告罪であった「強姦罪」「強制わいせつ罪」は、告訴がなくても起訴できる非親告罪になりました。「強姦罪」は名称を「強制性交等罪」に変更されました。
理由2.事犯の軽微性
被害が軽微でしかも直接公益に関しない場合に被害者が処罰を望まないのに訴追をする必要はない。
理由3.「法は家庭に立ち入らない」(家庭関係の尊重)
犯人と被害者が一定の親族関係にあるとき、法によっていたずらに家庭を壊さないように、親告罪とされています。
そのため、親族間の犯罪に関する特例にある罪は、親告罪とされています 。
2.親告罪一覧
- 信書開封罪・秘密漏示罪(135条)
- 過失傷害罪(209条)
- 未成年者略取罪・誘拐罪、わいせつ・結婚目的略取罪・誘拐罪
- 拐取幇助目的被拐取者収受罪、被拐取者収受罪と、これらの未遂罪
ただし、営利目的で犯した場合は非親告罪(229条) - 名誉毀損罪、侮辱罪(232条)
- 親族間の窃盗罪・不動産侵奪罪とこれらの未遂罪(224条)
- 親族間の詐欺罪・電子計算機使用詐欺罪、準詐欺罪、恐喝罪、背任罪、と、これらの未遂罪(251条)
- 親族間の横領罪、業務上横領罪、遺失物等横領罪(255条)
- 私用文書等毀棄罪、器物損壊罪、信書隠匿罪(264条)
その他の法律の親告罪
- 著作権等の侵害罪
- 漁業権等の侵害罪
- 無賃乗車等の罪
3.告訴権者(告訴できる人)一覧
告訴は誰でもができるわけではなく、その事件によって告訴権を持っている人のみができます。また、告訴権者の代理人(任意)によっても、することができます。
告訴権者(刑法230~234条)一覧
- 被害者が生きている場合
⇒犯罪により害を被った人(=被害者本人) や、被害者の法定代理人(=親権者、未成年後見人、成年後見人)が、被害者の意思と関係なく独立して告訴できます
- 被害者が死亡してしまっている場合
⇒被害者の配偶者、直系親族(父、母、子など)、兄弟姉妹が告訴できます。
但し、被害者が生前「告訴を希望しない旨」を明らかにしていたときは、告訴できません
- 被害者の法定代理人が、被疑者である場合、もしくは被疑者の配偶者、四親等内血族、三親等内姻族である場合
⇒被害者の親族は被害者の意思と関係なく、独立して告訴することができます。
- 名誉毀損罪の場合
⇒被害者の配偶者・親族・子孫が告訴できます。 但し、被害者が死亡している場合で被害者が生前に「告訴を希望しない旨」を明らかにしていたときは、告訴できません
- 親告罪なのに、告訴をすることができる者がいない場合
⇒検察官が指定した者が告訴できます。法律上又は事実上利害関係がある者の申し立てによって指定されます
親族とは
※親族とは、民法725条で規定されています。親族の範囲は以下のとおりです。
- 六親等内の血族(養子縁組など法律上血縁のつながりが擬制された者も含む)
- 配偶者
- 三親等内の姻族

図の数字は親等数を表しています。この図では、血族四親等までしか表示されていませんが六親等までが親族となります。
4.未成年の告訴
意思能力が認められる者は法定代理人(親など)とは別に、自分で告訴ができます。 具体的な判断能力は、事件によっても異なるので、告訴能力を一律に定めることができません。ですから、高校生程度までの未成年者が被害者として告訴をする時は、法定代理人からも告訴をしておくとよいです。
告訴・告発には、1.訴訟行為の意味・効果を理解できる。2.告訴・告発による結果に伴う社会生活上の利益・不利益(利害得失)の判断ができる。この2つの能力が必要とされています。
過去の裁判例では、中学生程度の被害者にそれぞれ告訴能力を認めています。
強制性交等罪(強姦罪)の被害者……13歳11ヶ月
強制性交等未遂罪(強姦未遂罪)の被害者……13歳7ヶ月
(※現在は強制性交等やわいせつ罪は告訴不要(非親告罪)となりました。)
5.成年被後見人、被保佐人の告訴
成年被後見人は、意思能力がなく、告訴・告発の能力はないとされますが、一時的に判断し得る状況になったときに、ある一定程度以上の判断能力が認められれば、有効に告訴をすることができる場合があります。しかし、後々に告訴権者としての効力が争われないようにするためにも、成年後見人からも告訴しておきましょう。
被保佐人は、 告訴能力が否定されることはなく、ひとりで告訴することができます。
6.被害者が複数人いる場合の告訴
被害者が複数人いる場合、例えば、被害物件の所有者と占有者、被害物件が共同所有であった場合など、これら1個の犯罪について被害者が複数人いる場合は、各個人が独立して告訴権を持ちます。
7.法人、法人格のない社団・財団が被害者のときの告訴
被害にあうのは人(自然人)だけとは限りません。
- 国、都道府県、市町村など地方公共団体
- 会社、財団、社団
- 組合、同窓会、クラブ、など法人格のない団体
これらの団体も告訴権者となりますが、団体内の誰でもが告訴できるわけではなく、それぞれの法人・団体の代表者がしなければなりません。
8.判例で告訴権者と認められた者
信書開封罪:信書が受け取られる(到達する)までは、被害者は発信人のみ。信書が受け取られた(到達した)あとは、被害者は発信人と受信人が告訴権者として認められています
未成年者略取・誘拐罪:身よりがない未成年を、実子と同様に養育・保護し、事実上の監護権を有する監督者が認められています
器物損壊罪:地方裁判所支部庁舎のガラス戸(国有財産中の行政財産)の損壊 →地方裁判所長も告訴権者となります
地方公共団体が賃借した、効率学校の校庭の土地損壊 →教育委員会、地方公共団体も告訴権者となります
建物の窓ガラス損壊 →建物の賃借人も告訴権者となります
共有関係にあるブロック塀の損壊 →共有者の妻(共有者本人は海外出稼ぎ中)も告訴権者となります
親族間の窃盗罪:妻の親族が行った妻の財産の窃盗は妻のみが告訴権者となり、夫に告訴権はありません。また、 親族間の横領は、持分の多少にかかわらず、被害者と認められます。
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