債務整理は、個人や法人が負債を整理する手続きを指します。借金返済に苦しむ人々にとって、さまざまな方法が提供されている債務整理は、最後の解決手段ともいえるものでしょう。
債務整理の代表的な方法として自己破産、任意整理、民事再生、特定調停があげられます。
また法律を超えた利率で計算された利息を、利用者が払い過ぎたとして返してもらう過払い金請求も、債務整理のひとつと見なされる場合もあります。
それぞれの手続きにはメリットとデメリットがありますが、適切な方法を選択することで、借金問題の解決に向けた一歩を踏み出すことができます。
自己破産は返済が難しい場合に利用
自己破産は、借金の返済が難しい場合に申し立てる破産手続きのことをいいます。
自己破産は、借金を全額免除してもらう手続きですから、全く返済できる目途が立たない場合に利用します。
ただし、自己破産では、99万円を超える現金や処分したときに20万円以上の価値がある財産は失われます。預貯金、保険、株式などの資産は20万円以下ならそのまま持っていても問題ありません。
自己破産を検討する際には、弁護士や司法書士と相談することが重要です。
自己破産手続の流れ
自己破産手続は以下のような流れで行われます。
- 弁護士に相談
弁護士事務所を選びまずは相談します。事務所によって相談が無料のところもあります。
正式依頼をすると、すぐに弁護士が借入先に受任通知を発送しますので、取立がストップします。
- 財産調査と債権調査
破産申立書類を弁護士が作成します。
- 破産手続の申立て
破産申立書類を、住所地を管轄する地方裁判所に提出します。裁判所では書記官が書類を審査し、不備などがあれば訂正や補充の指示があります。
提出する書類に問題がなければ、 支払い不能かどうかの自己破産の要件を満たしているか、免責不許可となる事由はないかがチェックされます。
- 破産宣告の手続き
裁判官が支払い不能状態と判断すると、破産手続きの開始決定がなされます。裁判所により異なりますが、開始決定時に裁判官面接(債務者審尋)を行うことがあります。
破産の開始決定が出されると官報によって公告されます。
- 免責許可決定
破産手続きだけでは、借金の支払い義務は免除となりません。つまり返済しないといけない状態のままです。
支払い義務を免除するためには、免責許可を得る必要があります。
申立書の記載や、裁判官面接で免責不許可となる事由がなければ、免責許可は決定されます。
- 破産手続の終了
免責許可が確定すると、借金の支払い義務は免除となります。
自己破産に関するQ&A
自己破産に関するよくある質問には、次のようなものがあります。
- 自己破産はどのような人に適していますか?
自己破産は借金を返済しなくてもよくなるのですが、財産等に制限を受けます。自宅を持っているなら売却しないといけなくなります。
自宅を持っている方で売却したくない場合には、自己破産は適していません。
また定年退職までに完済できる可能性がない方も、自己破産しておいたほうがよいケースが多いです。
定年退職後に年金を受給して生活するなら、収入が減る場合が大半でしょう。生活費と返済の双方をまかなうのが難しい状態ですから、早い段階で自己破産をして退職後の生活資金を貯めるようにしたほうがよいのです。
- 自己破産のデメリットは何ですか?
自己破産すると、官報に掲載されます。また、個人信用情報機関に金融事故として記録されるので、5年間はローンやクレジットカードの審査に通らない状態です。
また自己破産開始決定から免責決定が確定するまでの、半年程の期間は税理士、警備員、生命保険募集人など一定の職業に就けません。免責が確定すれば、また復職等は可能です。
マイホームなどの財産は資産とみなされるので売却されます。
- 破産手続き中に生活費はどうなりますか?
自己破産の手続き中でも、一定の職業以外は問題なく仕事ができます。
またお給料が入れば、生活費として使えます。
ただし、生活費のためにお金を借りると免責不許可事由に該当してしまいます。
任意整理は支払い方法の変更などで和解する方法
任意整理は、債権者と債務者が直接交渉し、分割回数等の債務の支払い方法や利息のカットについて和解を結ぶものです。交渉によって返済計画を立て、計画通りに返済を続けて最終的には完済します。
自己破産や民事再生と比べると、手続きが比較的簡略化されています。
任意整理手続の流れ
任意整理手続は以下のような流れで行われます。
- 専門家へ任意整理の相談の相談
弁護士や司法書士と面談し、返済の方針等を相談します。
納得いく専門家であれば、契約します。
- 専門家との契約
契約後即日~翌日くらいまでには受任通知が借入先に送付されます。
受任通知が借入先に届くと、督促や取立はストップします。
- 引き直し計算等を行う
借金の状態を確認し、過払い金が発生するなら引き直し計算を行います。
- 和解案作成&和解交渉
和解案を専門家が作成し、借入先と和解交渉に入ります。交渉に日数がかかるか、すぐに完了するかは借入額や借入先により異なります。
- 和解成立と和解書取り交わし
借入先から金額の修正の依頼などがあり、最終的に合意すると和解は成立します。
任意整理に関する気になる疑問のQ&A
任意整理に関するよくある質問には、次のようなものがあります。
- 任意整理はどのような場合に適していますか?
任意整理をするほうが良い方は、処分されたくない財産がある、保証人に迷惑をかけたくないといった場合です。
また周囲に債務整理をしたことを知られたくない場合も、任意整理をするほうがよいでしょう。
- 任意整理を行うとクレジットカードが利用できなくなりますか?
任意整理を行うと、個人信用情報機関に登録されますので、新規にクレジットカードを作成したり、ローン契約したりができなくなります。
また任意整理先ではないクレジット会社で、これまで延滞なくクレジットカードを利用していれば短期間なら使える可能性はあります。
ただし通常ローンやクレジットカードは途上与信といって、利用者の信用情報を定期的に照会していますから、任意整理をしたかどうかはわかります。
任意整理の記録がなくなるまでは、クレジットカードを使えないと考えておきましょう。
- 任意整理後、将来的に借り入れができなくなるのでしょうか?
任意整理の記録は、個人信用情報機関に5年から10年程度残ります。
任意整理の記録があると、ローン審査には通りませんから借り入れはできません。
融資を受けたいなら、信用情報機関の記録がなくなるまで待つ必要があります。
民事再生は再生計画に基づいて行う
民事再生は、借金返済が困難な個人や法人が、裁判所の債務整理手続きを利用して債務を整理する方法です。
民事再生手続きでは、裁判所が債権者と債務者の間に入り、債務の支払い条件や金額を再調整します。
個人版民事再生とは?
個人版民事再生は、個人再生ともよばれ個人が民事再生手続を利用して債務整理を行う方法です。
個人再生も返済総額を少なくし、減った返済額を原則3年で返済する再生計画に基づいて返済していきます。
自己破産と異なり、財産の一部は処分されません。
民事再生手続の流れ
民事再生手続は以下のような流れで行われます。
- 申立代理人弁護士の選定
まずは裁判所や債権者の対応窓口となる申立代理人弁護士を選定します。
選定後は、申立に向けて疎明資料として債権者一覧表や資金繰り表等を作成します。
- 裁判所への申立て
裁判所へ申立てがなされ受理されると、即時に裁判所が弁済禁止の保全処分決定を下します。これにより、申立て以前の原因により再生債務者が負うことになった再生債権に対する弁済が原則として禁止されます。
再生手続きには、債権者の理解と協力が重要なので法人が民事再生を行う場合には債権者向け説明会を通常開催します。
- 再生手続きの開始
再生手続きが開始すると、事業の再建と再生計画案策定に向けて本格的に活動していきます。
- 再建に向けた活動
返済するためには事業の再建が必須ですから、債務者の収益性を改善するために見直しを行います。
人員削減や工場や事業所の閉鎖等を行うこともあります。
- 民事再生計画の作成
再生計画案を策定するために、再生債務者の財務内容である資産・負債を確定させます。
また財産評定の手続きを、原則として再生手続き開始日を基準として財産を処分するものとして行います。
- 再生計画の確定後は計画遂行
再生計画が確定すると、再生債権者に対して再生債権の弁済を行うなど再生計画を利用していきます。
個人再生の場合にも、準備・申立→申立受理→再生計画の提出→再生計画の審査→再生計画の確定→返済開始といった流れは同様です。
民事再生のQ&A
民事再生に関するよくある質問には、次のようなものがあります。
- 民事再生はどのような場合に適していますか?
個人の方が民事再生をするかどうか迷う方は、債務の額があまり大きくないかがポイントになります。
短期間で計画通りに返済しないといけないので、あまりに債務の額が大きい場合には自己破産のほうが適しています。
また自分で所有している自宅を手放したくない場合にも個人民事再生は向いています。
- 民事再生手続中、生活費はどうなりますか?
個人で民事再生を行う場合には、手元に自分の現預金は残した状態で、個人民事再生の手続きをすすめられます。
ただし、預金額が大きいと個人再生で返済する金額は増えることもあります。
仕事に関しても制限はありませんので、給料から生活費を 支払っていくことになります。
- 民事再生後、将来的に借り入れができなくなるのでしょうか?
民事再生を行うと、他の債務整理と同様に個人信用情報機関に記録が残ります。いわゆる金融ブラックといわれる状態で借り入れやクレジットカード作成ができません。
ただし借り入れができない状態は、5年から10年程度ですからその後はまたローン申込などはできる状態になります。
特定調停は簡易裁判所が仲介する
特定調停は、債務者が申立を行い簡易裁判所がお金を借りた側と貸した側との話し合いを仲介して、債務者が生活を立て直せるようにする方法です。
簡易裁判所が、借主と貸主の合意を働きかけていきます。
特定調停でも、任意整理のように引き直し計算をして元本を減額して、その元本をもとに分割して返済していく流れです。
特定調停手続の流れ
特定調停手続は以下のような流れで行われます。
- 特定調停の相談
専門家へ特定調停の流れは相談できますが、申立書類等の必要書類の作成や申立は本人が行います。
- 簡易裁判所への申立
相手方の所在地を管轄する簡易裁判所に申立を行うと、事件受付票が交付され、調査期日が指定されます。
- 調停委員の選任
裁判所が調停委員を選任します。特定調停では、調停主任裁判官と原則として2名の調停委員(非常勤の民間人)が調停委員会を構成し、申立を担当します。
- 調査期日の設定
調査期日が設定されると、申立書の内容、債務状況の確認、今後の生活の見込みなどを申立人は質問されます。
- 調停期日
調査期日後に調停期日が設定され、各債権者ごとに返済計画が調製されます。
- 調停調書の作成
債権者の同意が得られると、調停調書が作成されます。
債権者の同意が得られなかった場合には、調停委員会が適当な内容で決定を下します。
- 返済を開始
債権者が同意した場合には、調停で定められた返済計画に基づいて返済していきます。
債権者が異議を唱えた場合には、特定調停は成立しません。借金は減額されないので、自己破産や任意整理など別の債務整理手続きを検討することになります。
特定調停に関するQ&A
- 特定調停を利用できるのはどんな人?
特定調停は返済を行いますので、継続して収入を得る見込みがある方が利用できます。
また、特定調停により減額した債務を3年程度で返済しないといけないので、あまりに大きな金額だと利用できません。
- 特定調停をすると必ず借金は減額される?
特定調停をしたからといって、必ず減額されるわけではありません。
というのも特定調停での減額の対象は、利息制限法の上限金利を超える利息を取っていた貸金業者からの債務となるためです。
また債権者が異議を出すこともあるので、特定調停は確実に借金できる債務整理の方法というわけではないのです。
過払い金請求は払い過ぎた利息の返金を受ける方法
過払い金は、消費者金融などお金を貸す側が取り過ぎていた利息のことをいいます。過払い金請求とは、その利息の返金を受ける手続きを意味します。
過払い金請求をするには条件があり、2010年6月以前の借り入れ、完済から10年経過していないという2点とも満たしておく必要があります。
過払い金請求の流れ
過払い金請求を行うためには、どのような流れで手続きするとよいのでしょうか。
- 貸金業者への受任通知の発送
弁護士など専門家に依頼すると、受任通知を借入先に送付します。
受任通知を受け取った貸金業者などは、取立や返済をストップすることになります。
- 借金額等の全体の把握
多重債務の場合などは特に、借り入れた時期や金額などがあいまいになりやすいです。カード会社から取引履歴を開示し、借金額や現在の状況を把握します。
- 引き直し計算
取引履歴をもとに、法定金利(15.0%~20.0%)に従った引き直し計算を行い過払い金の請求額を算出します。
取引履歴が開示されるまでには、通常受任から1ヶ月~3ヶ月程度かかります。
- 貸金業者へ過払い金の返済請求
依頼した法律専門家等から借入先に「過払い金返還請求書」を送ります。
個人でも過払い金請求はできないわけではありませんが、請求書送付後の電話や書面での交渉を任せられるので不安がある場合は専門家に依頼しましょう。
- 和解
借入先が返還に応じると、合意書を取り交わします。
- 過払い金の返還
決められた返還日までに、過払い金が返還されると完了です。
過払い金請求に関するQ&A
過払い金請求に関して気になる疑問を解決しておきましょう。
- 過払い金はどれくらいで返金されますか?
過払い金は、請求から実際に返還されるまでは2~3ヶ月かかるといわれています。
弁護士に依頼するなら、実際の返還までには3ヶ月~6ヶ月もかかってしまうことがあります。
- 過払い金はいつでも返還されますか?
過払い金は、請求しないと戻ってくることはありません。
また時効も10年と決まっているので、経過してしまっていれば、過払い金は戻らないのです。
- 過払い金返還請求をするとどんなデメリットがある?
過払い金請求をすると、返済中の貸金業者であれば、一時的に信用情報に自己情報が登録される可能性があります。
返済中でなく完済済なら、事故情報としては登録されません。
また過払い金を請求した貸金業者などから借入できなくなる可能性もあります。
以上が、債務整理の手続きや方法についての概要です。自己破産、任意整理、民事再生、特定調停など、それぞれの方法には特性がありますので、個々の状況に応じて適切な方法を選択することが大切です。
個人でできる債務整理でも、専門家が介入すると取立がすぐ止まったり、適切なアドバイスをもらえたりとメリットがあります。
気になる点がある場合には、専門家に相談してみるとよいでしょう。